地下鉄に乗る。ソウル。車内は少々混雑している。
私は人混をかわして車両の中央へ。紫色のシャツをズボンにきっちりと「イン」した、風変わりな男の前に立つ。小柄で痩せたその男は、フェルトペンを片手に新聞のロジックパズルに熱中している。
私はその様子を、見るとはなしに眺めていた訳でありますが、やがてその解読作業が恐ろしく速いということに気が付いた。
男は新聞をあちこちに回しながら、丁寧にマス目を埋めてゆく。食い入るようにピクチャーロジックに
没頭する猫背の男。その姿には一種異様なムードが漂い、常人離れした集中力を思わせた。
やがて男は一枚を終える。完成の感慨にたいして浸 る訳でもなく、紙袋から別の新聞紙を取り出して、ペン尻でトントンと紙面を叩き——早速 脅威的なスピードでブロックを塗り潰し始めた。
私がもし国際ピクチャーロジックパズル協会の関係者だったら、まずはこんな才能を放ってはおけない。——彼は解読そのものを楽しんでいる!およそ天才と呼ばれる人々は、彼のような人物なのではないのだろうか?人脈や学歴とは関係ない、真の天才は地下にいた!——そう考えると、みすぼらしかった彼の 風貌 も、何やら偉人の出で立ちのように思えてきて、私は密かに彼を「地下鉄の賢者」と呼んだ。
賢者はさらに二枚目も終える。たった三駅の移動時間で……
そうして今度は席を立つと、向かいのアミ棚の上に読み捨てられていた新聞紙の束を、自らの紙袋に仕舞い込み、「聖水」の駅へと消えていった。
そうか、賢者様はあのようにして「知恵の紙」を集めては解き、地下の生活を送っておられるのだな…… 天の才とは無縁の私は、ひとしきりの感慨にふけった後、ふと彼が残した紙面を見る。
——なんじゃこりゃ?
なんの実像も結んでいない。
ピクチャーロジックって確か正しく塗り潰してゆくと、何らかの図形が浮かび上がってくるんだよね?
ふむ。作業の速度と正解率とは、まるで別の話であります。
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Illustration by Kaori Mitsushima |
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